園だより


敏感期


各クラスを覗きながら歩いていると、椅子に座って真剣に連続した数字を並べている後ろ姿のT君を見つけました。
T君は年少の頃同い年の子数人と、部屋の中をにぎやかに動き回っていた子でした。
この日は余りに集中した様子なので、担任の先生に 「T君のこと、よく見ていて」と耳打ちしました。
その後T君は自由選択の時間、全く他のことに気をとられることなく最後まで続けたというのです。
そして翌日やはりそのお仕事を選択し、
「並べていた数字を年少の子にいたずらされても怒る事無く、再びやり直していました」 と担任も驚いて報告してくれました。
その後、外遊びで出会ったT君の笑顔は穏やかでした。

子どもをより良く援助する為には、子どもが自分の成長に必要なものを
環境から見つけ出す時期である敏感期を知っておく事が大切です。
環境の中に見つけ出したある対象に一途に関わっていくエネルギーで、
青年期に伴侶を見つけるために異性に敏感になリ、恋した時はその人しか見えなくなり、
その人に情熱を傾け努カするエネルギーに似ています。 (相良敦子著 お母さんの『発見』より)


T君が夢中でお仕事に向かっていたのは、自己建設に必要なエネルギーを傾ける方向を見つけたからです。
1から100までの数字を並べていくことは、4歳の子どもにとってそう容易な事ではありません。
しかし内面からあふれるエネルギーによって行なわれている活動は、
子どもにとって苦労を感じることはなく、逆に仕事を終えた後の達成感は、
穏やかで周りの者に心を配ることの出来る高度な人間性さえも育ててくれます。
T君の繰り返された数字を並べるというお仕事は、1から100まで並べる力を育てたという事よりも、
人格を形成している最も重要な幼児期に、円満な人柄を育てている事に援助者である教師や親は目を向けていかなければなりません。
T君がお仕事に集中できたのも、たくさんあるお仕事の中から内的な要求に一致したお仕事を自分で選んで取り組んだからです。
これが、数字を覚えさせたいという単なる親の早期教育的願望から押し付けたものであったなら、
決して長い時間取り組むこともなかったでしょうし、年少の子に邪魔をされても感情を乱す事無く続ける、などという事はなかったでしょう。
こどもの成長の仕方には、ひとり一人違ったプログラムを持っていることを覚えておかなければなりません。
ですから、親や教師にはその子どもが今何を求めているのかを子どもから学ぶという、常に謙虚な姿勢が要求されてきます。
子どもの成長する姿に喜びを見出しながら、その援助者である私たち教師は、絶えず自分を高める努力をしていきたいと思います。
努力している人の目には努力している子どもの姿を正しく捉える事ができるでしょうから。

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